母親の期待や価値観に縛られた経験はありませんか?
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者、三宅香帆氏が、母娘の関係を色々な本を参考に読み解いていく『娘が母を殺すには?』は、そんな経験を持つ人に読んでほしい1冊です。
かなり大胆なタイトルですが、もちろん物理的な話ではありません。
母親の規範や影響から、どうすれば娘は自由になれるのか、を探っていく構成になっています。
私も「娘」であり、現在は子育てをする「母」という立場でもあります。
「どうすればお互いに自立した母と娘となれるのか」は、ぼんやりと不安に思っていたことでした。
かなり攻めたタイトルに惹かれたのは、この不安がはっきりと言葉にされていたからだと思います。
この記事では、この書籍の内容や魅力を紹介していきます。
母親との関係に悩んだことがある人、娘に同じ悩みを抱えて欲しくない人は、ぜひ一読してみてください。
『娘が母を殺すには?』はどんな本?
本の概要を簡単に説明します。
タイトルにある「母殺し」は、もちろん物理的な意味ではなく、精神的な概念です。
これは、母親の価値観や規範から解放され、自立した存在になること。
娘が成長する過程で母親の期待や愛情に縛られ、その影響から抜け出せない、という「母娘の葛藤」は社会現象となっています。
現代社会に生きる女性たちは、どのように母親の規範から抜け出せばいいのかを探っていきます。
なぜ「母殺しの物語」は難しいのか?
「息子が父を殺す物語」は、フィクションで繰り返し描かれるテーマです。
ではなぜ、「娘が母を殺す物語」は難しいのか。
それは、母は愛情で子供を支配するからだ、と本書では指摘されています。
力で支配されることももちろん恐ろしいことですが、それは、「強くなれば倒すことができる」ということでもあり、相手を倒すことを正当化できる、という見方もできます。
一方、愛情による支配はどうかというと、「愛情を注いでくれる相手を倒すのか?」という葛藤が生まれます。
愛情は「弱さによる支配」とも表現されていますが、弱さで自分を縛る相手を力で倒しても意味はなく、むしろ、積極的に倒そうとする意識すら持てなくなってしまう。
これが、「母殺し」を困難にしているのです。
「愛情による支配」と、はっきり言語化されているのがすごいところ。
この難題の解決方法を探すため、本書では「母殺し」を試みたいくつかのフィクション作品を読み解いています。
- 『イグアナの娘』『ポーの一族』萩尾望都
- 『なんて素敵にジャパネスク』氷室冴子
- 『キッチン』吉本ばなな
- 『凪のお暇』コナリミサト
- 『SPY×FAMILY』遠藤達哉
こちらは取り上げられている作品の一部です。
私も読んだことのある作品が多かったですが、「母殺し」という視点は初めてだったので新鮮な気持ちで内容を思い返しました。
改めて読み返したくなります。
時代とともに少しずつ描き方が変わっていく「母殺し」の試みは、しかし、決定的な成功が生まれないままでした。
どうすれば娘は母から解放されるのか?
では、娘はどうすればいいのか?
本書では、その方法を以下のように提案しています。
いうなれば、「母殺し」とは、母と娘の密室から出て、外の世界に出会う旅、なのだ。
『娘が娘を殺すには?』p184 (電子書籍版)
「母に愛されなくても、これを愛せているから、私の人生はこれでいい」と思えるようなもの。「母はああ言っていたけれど、それは一つの価値観でしかないから、気にしなくていいや」と気づかせてくれるもの。そんな「他者(モノでもヒトでもコトでもいい)」と出会うことが、重要なのである。
「母と娘」だけの閉じた世界から出ること。
外の世界で「愛せる他者」と出会うこと。
これこそが、倒すことなく「母殺し」を成功させるための唯一の手段である、と言っています。
「そんなこと?」と思われるかもしれませんが、母と娘だけの密室から外の世界に出ることは、意識せずにはできません。
本書では、「母殺し」の困難さの背景に、女性が家族のケアを引き受けることで社会を保っている、ジェンダーの偏りが潜んでいることを指摘しています。
戦後の社会では、「父は外で、母は家で働く」という役割分担が続きました。
現代でも家や家族のケアは女性がするもの、という暗黙のルールを感じる場面はたくさんあります。
「父は外に」出ているからこそ、「母は家に」いなければならない。
そして家にいる母は、外に出ている父よりも、より自分のことを理解してくれる「娘」に依存するようになる。
この構図を理解しておかなければ、娘は母をおいて「外に出よう」という意識を持てないし、母は娘を「外に出そう」と思えないのです。
だからこそ、はっきりと言語化した意識を持たなければいけない、と思いました。
娘であり、母である私ができること
この本に出会えてよかった、と率直に思います。
母親との関係に悩んだことのある自分が、自分の娘を同じように苦しめないためにどうすればいいのか、という疑問に真っ向から答えてくれたからです。
「他者と出会う」こと。
私自身が、母が全く興味を持たなかった「読書=他者」を通じて、「母の言っていることは絶対ではない。世の中にはこんなにたくさんの考え方がある」と気づけたように、娘にも「他者」と出会う機会を持ってほしい。
自分の子供には、読書が好きになってほしい、と思っています。
それは、「読書をする子は頭がよくなる」「語彙力が豊富で感性が豊かな子になる」といった、よく聞く理由ももちろんあるのですが。
一番は、本書に書かれている通り、読書を通じて「他者」に出会ってほしいから、なのだと再認識しました。
娘は、外の世界に出て他者と出会う。
そして母も同じく、外の世界で他者と出会えばいい。
娘と母がそれぞれ外の世界に出ていくことが、健全な母娘の関係のため、私にできることだと思いました。
まとめ:母娘の関係性へ新たな視点を手に入れよう
『娘が母を殺すには?』は、母親からの影響力や期待に悩む人、かつて母親との関係に悩み、今は娘との関係に悩んでいる人にとって、大きなヒントとなる一冊です。
また、母親に限らず、家族の影響に縛られて生きることに苦しんでいる人にとっても、新たな視点を与えてくれるはずです。
この本を通じて、母親と、あるいは娘との関係を考え直し、より自由で自立した生き方を見つけることができるかもしれません。
本書の中で、ジェンダーロールの偏りが「母娘関係の問題」を生んでいる、という指摘がありますが、このジェンダーロールの偏りについては、同著者の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で、「全身社会」として問題提起されています。
『娘が母を殺すには?』が家の中なら、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は家の外、と対となる内容が書かれています。
興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。
この本を読んだ人におすすめの本
この本を読んだ人には、こちらの本をおすすめします。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
記事内でも書いた通り、『娘が母を殺すには?』の対となる内容で問題提起されています。
『娘が母を殺すには?』の内容をさらに深く掘り下げたい人、働き始めてから読書量が減ったと感じる人は、ぜひ読んでみてください。
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いっちょ外の世界に出てみようか!と思った人は、こちらの本を参考に読書を始めてみるのもおすすめです。
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