みんなの『大好きな鬱小説』ランキング、堂々1位の作品といえばこちら。
桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。
X(旧:Twitter)で企画されていた『#大好きな鬱小説』で圧倒的得票数でトップになった小説です。
納得しかない1位。
著者の桜庭一樹さんは、子供、特に少女を巧みに描く作家さん。
社会問題を小説の中に取り込んで、物語として言語化するのがとても上手。
本作でも、大人には見えない、あるいは忘れてしまう、子供の世界の絶望と無力感が描かれています。
私もこの作品が大好きで何度も読み返していますが、読み返すたびにうなだれるほどの絶望に襲われます。
「絶望するってわかってて読みたくないよ…」と思うかもしれませんが、
「嫌な気持ちだけで終わる」小説では決してありません!
絶対に絶望するのに、みんなが大好きな小説としておすすめしているのを信じて、ぜひ読んでみてください。
Audibleで今すぐ聴ける!
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、Audible(オーディブル)の聴き放題対象作品。
桜庭一樹さんの作品は、オーディオブックになっている作品が少ないので貴重なチャンス
初めてAudibleを利用する人は、30日間の無料体験期間が提供されるので、気になる人はチェックしてみてください。
あらすじ
タイトル:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
著者:桜庭 一樹
Audible:聴き放題対象
現実主義者になるしかなかった山田なぎさと、嘘つきになるしかなかった海野藻屑。
二人の少女が、どうしようもない無力感と絶望の中、生き延びるために足掻く物語です。
「砂糖菓子の弾丸」と「実弾」とは?
タイトルの「砂糖菓子の弾丸」とは、藻屑の発する嘘や空想を比喩したなぎさの言葉です。
対してなぎさは、早く中学を卒業して自衛隊に入り、「実弾」を撃ちたいと願っています。
「銃を撃ちたい」のではなく、「生活していくための力がほしい」ことの比喩。
生活が苦しい家庭で育っているなぎさにとっては、お金や生活力こそが本物です。
夢や空想はなんの力もない、現実を撃ちぬくこともできない、甘ったるいだけの「砂糖菓子」。
なんの意味もない嘘や空想を並べ立てる藻屑の言葉は、なぎさにとって「砂糖菓子の弾丸」なのです。
この「実弾」と「砂糖菓子の弾丸」の対比が、じわじわ効いてくるんです。
一見正反対に見える2人ですが、物語を読み進めていくと実はとてもよく似ていることがわかってきます。
感想:『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の魅力

この物語の魅力と考察を、3つのポイントに絞って書いていきます。
【ネタバレ】が含まれるのでご注意ください。
①最初の1ページで絶望する
よく「ラスト1行の衝撃!」とか「最後のどんでん返し」とか言いますよね。
本作、最初の1ページで絶望できます。
たった数行の新聞記事から抜粋した文章が、「もう終わってしまったどうしようもない絶望」を突きつけてきます。
読者はその絶望を抱えながら、「それが起こるに至った経緯」を知るために物語を読み進めていくことに。
もう変えられない事実が目の前にあり、「誰がどんな行動を起こしても結末はこれ」と最初に提示され、主人公のなぎさや藻屑が感じている絶望や無力感を、同じように読者も味わうことになるこの構成。
読書体験としてあまりにも上質すぎて苦しい…。
②「好きって絶望だよね」に込められたもの
こんなに絶望する言葉ある?
「好きって絶望だよね。」は、藻屑が認識する「好き」という言葉の定義。
役に立たない嘘や空想ばかりを口にすると思われていた藻屑の、本心でもある言葉。
ポジティブな意味を持つはずの「好き」という言葉が「絶望」とイコールになる世界に藻屑は生きているのです。
実は藻屑は、自分の父である海野雅愛(まさちか)から、壮絶な虐待を受けています。
足を引き摺るように歩くのも、片方の耳が聴こえないのも、全て父親からの暴力が原因。
過酷な現実を生き抜くために藻屑ができたのは、「自分は人魚だ」という「砂糖菓子の弾丸」を撃ち続けること。
父は自分を愛しているから暴力を振るうのだと信じ、愛に耐えるために嘘をつく。
子供である藻屑が現実に抵抗する方法は、それしかありませんでした。
「好きって絶望だよね」は、実は父の雅愛の気持ちでもあるのではないでしょうか
藻屑にした仕打ちを一つも肯定できないし、許されることではありません。
でも、雅愛自身もまた、「暴力こそが至上の愛」と刷り込まれて大人になった人物なのではと思わせる描写があります。
「生き残った子が大人になる」この世界で、雅愛は歪んだ愛を持ったまま「生き残ってしまった」子供だったのかもしれません。
③「砂糖菓子の弾丸」がこの世界に残せるもの
子供が「大人になれる=生き残れる」かは、「実弾」を手に入れる猶予をもらえるかどうかが大きく影響します。
「砂糖菓子の弾丸」をいくら撃ち続けたところで、現実は何も変えられないからです。
実際、実弾を求めたなぎさは生き残り、砂糖菓子の弾丸でしか戦えなかった藻屑は大人になれませんでした。
でも、全てが無駄だったわけではないと思います。
藻屑の放った「砂糖菓子の弾丸」は溶けてなくなっても、なぎさの中に何も残らなかったわけではありません。
読者の中にも、藻屑の放った弾丸で何かが残ったのではないでしょうか。
物語の結末は衝撃的で、無力感と寂しさに絶望します。
しかし、だからこそこの物語が痛みとともに、何かを確かに残してくれます。
まとめ
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、無力感と絶望を味わいますが、読者の心に強く残る力を持った物語です。
小説というのは、「砂糖菓子の弾丸」のようなものかもしれません。
どれだけ撃ち続けても、直接現実を変える力はないのかもしれない。
それでも、この物語が長く愛されているということは、溶けて消える嘘と空想も、現実に何かを残すことができる証拠でもあると思います。
この物語が読んだ人の中に何を残すのか、ぜひ確かめてみてください。
この本の次に読む本
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んだ人におすすめの「次の本」を紹介します。
桜庭一樹の描く、父と娘の許されない行いを描いた直木賞受賞作。
海野藻屑を投影した存在、腐野花(くさりの・はな)が主人公の物語。
過去に遡って物語は展開し、どんどん不穏な空気に包まれていく構成です。
決して爽快な結末ではありませんが、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後に読むと、読後感が変わるかもしれません。
子供ゆえの無力感、大人からの理不尽を描いた桜庭一樹の小説。
「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竈(かわむら・ななかまど)と、周囲の「可哀想な大人たち」の物語。
大人から勝手に何かを託されてゆく七竈の、喪失と変化を感じられる作品です。
Audibleで聴けるおすすめ小説が知りたい人はこちらの記事をチェックしてみてください。