三浦しをん先生の男性バディもので、テーマが書道!渋い!
バディもの、と書きましたが、目的は「代筆」。
手紙を、本人に代わって書くためにタッグを組んでいるのです。
「手紙を書く小説ってなんか地味じゃない…?」と思った人、安心してください。
三浦しをん先生の手腕で、地味だなんてこれっぽっちも思いませんでした!
むしろ、この小説を読み終えたとき、文字の持つ不思議な魅力に取りつかれて、何か書いてみたくなりました。
- 三浦しをん先生の男性バディものが気になる
- 書道や代筆がテーマの小説がどんなものか気になる
この記事では、『墨のゆらめき』を実際に読んでみて面白かったポイントをまとめています。
読んでみようか迷っている人は、参考にしてみてください。
本の概要
タイトル: 墨のゆらめき
発行: 新潮社
著者: 三浦しをん
備考:新潮社とAmazonオーディブルとの共同企画。
全編の朗読がAmazonオーディブルで配信された後、書籍が刊行される。
新潮社とAmazonオーディブルとの共同企画のために書き下ろされた長編小説で、まずはオーディオブックとして刊行されました。
続いて小説として発売されています。
私は最初、Amazonオーディブルで聴きましたが、どちらが先でも楽しめると思います。
もともとオーディオブックとして「聴く」ために書かれた小説なので、オーディブルで聴くとより臨場感が味わえ、物語の世界に深く没入することができます。
無料体験期間中に聴くこともできるので、ぜひオーディブルを利用して聴いてみて欲しい作品です。
以下に、読んで面白かったポイントをまとめます。
本書の面白いポイント
この本の面白かったポイントを紹介します。
面白かったポイント① 正反対の性格のバディ
一見全く合わなさそうなふたりが、お互いの足りない部分を補いあえるのがバディもののいいところです。
『墨のゆらめき』でも、このバディものの基本はしっかり押さえられています。
続力は、実直で真面目なホテルマン。
遠田薫は、おおざっぱでおちゃらけた書道家。
性格も職業も、現実ではなかなか接点が見当たらないふたり。
このふたりを繋げるのが、手紙の代筆です。
代筆とは、文字通り「人に代わって手紙などの文章を書く」こと。
手紙を書きたい人の思いを正しくくみ取り、筆跡をそっくり真似なくてはいけません。
書道家の遠田は、書道の腕前は一流です。
筆跡は、小学生男子からパーティーなど招待状の宛名書きまで、幅広く完璧に真似ることができます。
ただ、遠田には人の思いを正しくくみ取ることができません。
彼の性格以外に訳ありな事情も関係していますが、そのあたりは物語を読んでみてください。
とにかく、遠田のできない「思いを正しくくみ取り、それを文章にする」。
これが、続力の役割です。
力は、手紙を依頼する人が「心からそう思っているけれど、どう言葉にしたらいいのかわからない」気持ちを、的確な文章にする能力に長けています。
力は、その人の望みの、本質をつかむことができるのです。
これは書道の完璧な腕前を持ちながら、「本質がとらえられていない」と師から評された遠田と正反対です。
ふたりは成り行きでタッグを組んで、代筆の依頼をこなしながら距離を縮めていきます。
お互いが、自分にはないものを持っている相手と向き合いながら、新しい関係を築いていく様子が丁寧に描写されています。
バディものが好きな人におすすめのポイントです。
面白かったポイント② 言葉で表現された文字の美しさ
「文字」という、ある意味一番言葉で表現することが難しい題材を、美しく描写しているのも、この作品のすごいところです。
絵や音楽も言葉で表すのは難しいと思いますが、「書」を言葉で表現するって、超高難度です。
あらゆるものは文字で表現できるけれど、文字は言葉でどう表現するのか?
教科書みたいな文字、とか、小学生みたいな筆跡、とかならまだ考えられそうですが、それではあまりに味気ない。
『墨のゆらめき』の中で、遠田はいくつかの文字を書きます。
その文字は、主人公である力の目を通して、読者である私たちに伝わります。
力の、ものごとの本質をよくとらえ、そして的確な文章にする能力はここでも発揮されます。
例えば、力は遠田の書について、こんな表現をしています。
活字のようにかっちりした書体で、神経質なほど端整なのに、全体としてなぜかぬくもりと体臭が感じられる
『墨のゆらめき』より
力のこの言葉で、目の前の書がどんな文字なのかイメージが浮かんできます。
遠田の一流の腕が生み出す文字が、力の表現力によって、読者の前に描き出されます。
作品内で遠田が生み出した文字も、読者にとってはある意味、力とふたりでタッグを組んだ共同作品と呼べるのかもしれません。
面白かったポイント③ 思わず笑ってしまう三浦しをん節
遠田薫の雑な言動に、続力が入れる絶妙なツッコミ。
薫はたびたび、「それは言ってはいかんやろ」ということを平気で言ってしまいます。
力も、本当は全力でやめろと言いたいでしょう。
ただ、仕事の取引相手ではあるので、正面切ってバッサリ切り捨てることはできません。
でも、真面目な性格だから突っ込みを入れずにいられない。
絶妙な立場と趣味の読書で培った語彙力が組み合わされた、控えめかつ的確なツッコミを含めたやりとりは、思わず笑ってしまいます。
かと思えばそんな力が真面目かつ全力で考えた、あるカップルの別れ話のためにつくられたパンダについての手紙は、思わず笑ってしまう内容です。
力がただの真面目な常識人ではなく、「真面目だけどちょっと変わった人だな。いや、この内容を考えられるのはちょっとどころじゃなくて、けっこうな変人だな」とわかる場面でもあります。
ただ笑いを取るための描写ではなくて、人物像がより浮かび上がってくるエピソードとなっているのがすごいなぁ、と感心します。
力の考える手紙は、心に響くものから、これはないだろ、と笑ってしまうものまで幅広く、飽きません。
まとめ
『墨のゆらめき』は、三浦しをん先生の人物描写と、書への情熱が感じられる作品です。
特に、遠田が生み出す文字の、墨の濃淡や線のかすれ具合が鮮やかに描かれて、まるでその場にいるかのような臨場感を味わえます。
また、主人公である力と遠田の関係性が徐々に深まっていく様子が非常に心温まるものとなっており、読者を引き込む力があります。
全く書道に関心がない人でも、書を見てみたいと思う作品です。
Amazonオーディブルのために書き下ろされた長編作品なので、オーディブルで聴くとより感情移入できる物語になっています。
普段、読書は紙や電子書籍でするという人も、ぜひオーディオブックを活用してみてください。
お得に読む
この作品は、Amazonオーディブルの聴き放題対象作品です。
対象者は、30日間無料で利用可能。
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この本を読んだ人におすすめする次の本
三浦しをんの作品がもっと読みたいと思った人にはこちらの作品がおすすめ。
『墨のゆらめき』と同じく男性バディもの。
便利屋を営む多田(ただ)の元に、元同級生の行天(ぎょうてん)が転がり込むところから物語は始まる。
なんでもない依頼のはずが、なぜだかきな臭い出来事に巻き込まれていく、ちょっと物騒な、けれど心温まるストーリー。
こちらも一見地味な、「辞書作り」に焦点をあてた物語。
言葉の成り立ち、美しさ、そしてそれらを編み上げることに情熱をかける人々。
映画化もされた、三浦しをん先生の人気作品です。
「代筆」がテーマの小説が読みたい人はこちらがおすすめ。
鎌倉にある小さな文具店「ツバキ文具店」を舞台にした物語。
主人公の鳩子が、依頼者に代わって文字をかきます。
和食屋のお品書きから、絶縁状、天国からの手紙まで、文字に関すること、なんでも承り〼。