2025年の本屋大賞に、恩田陸の『spring』がノミネートされましたね。
恩田さんは以前にも『蜜蜂と遠雷』で本屋大賞を受賞しているので、結果が楽しみです。
今回紹介する『spring』は、芸術と天才の世界を描いた1冊。
バレエの世界を舞台に、天才ダンサー萬春(よろず・はる)の人生を描いています。
男性のバレエダンサーをメインにした小説は、珍しいのではないでしょうか。
バレエに詳しくないのですが、頭の中で登場人物が踊る様子が見えるようでした!
『蜜蜂と遠雷』で、「小説なのにピアノの音がする!」と感じた人は、
バレエを見たことがなくても楽しめる作品だと思います。
本屋大賞にノミネートされて「気になる!」と思った人は、ぜひ読んでみて下さい。
本屋大賞ノミネートを記念して『spring プレミアムブックレット 』が刊行されています。
非売品なのでKindleで0円入手でき、主要人物のプロフィールや朝井リョウさんの感想が読めます!
『spring』が恩田陸デビュー30周年記念作品ということもあり、力が入っていますね。
本編を読み終わった人は、プレミアムブックレットもぜひチェックしてみて下さい!
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本書を読んだ理由

恩田陸作品には、『チョコレートコスモス』や『蜜蜂と遠雷』など、芸術を取り扱った物語があります。
もともと、「天才」という題材で描かれた物語が好きだったので、どちらの作品も大好きです。
今回は「バレエ」がテーマで、ほとんど馴染みがなかったので「わかるかな…」と不安でした。
でも、『蜜蜂と遠雷』の音楽と天才の描き方、めっちゃ好きだったし!
『spring』でバレエの美しさと天才がどのように表現されているのかを確かめたくなり、手に取りました。
あらすじ
タイトル:spring
著者:恩田陸
備考:著者デビュー30周年記念作品、2025年本屋大賞ノミネート作品
『蜜蜂と遠雷』は、ピアノコンクールに優勝するという一つの目標がありました。
今作の『spring』にはわかりやすい目標はなく、「萬春」という天才がどんな人物だったかを色々な人の視点で覗き見ていく物語、といった構成です。
そのため4章からなる物語は、章ごとに語り手=視点が変わります。
それぞれの視点人物が萬春との出会いから現在に至るまでについて語っていきます。
決して派手ではなく、どちらかといえば淡々と進んでいく物語。
しかしその中に、春のバレエへの情熱や天才性、そして埋められない孤独が、繊細に描かれています。
感想:『spring』の魅力

『spring』を読んで良かったところを3つのポイントに絞ってまとめます。
①言葉で表現されるバレエの美しさ
『蜜蜂と遠雷』でピアノという題材を見事な小説にした恩田さん。
今作ではさらに表現が難しい「音楽×ダンス」という題材が、臨場感たっぷりに描かれています。
舞台の上で踊っている様子が、頭の中にはっきり浮かんでくる!
バレエって、バーの横でポーズをとる「バーレッスン」のイメージが強くあったんですが、
「バレエの舞台ってこういうことだったんだ」と納得。
踊るときの姿勢、表情、空気。
激しい曲、穏やかな曲、明るい曲、暗い曲。
作中ではたくさんのバレエダンスが描かれますが、一つ一つ、実際に舞台で見たような気持ちになれます。
バレエをなんとなくしか知らない人でも、ポーズや雰囲気が頭に浮かぶ文章がすごい。
②多視点で描かれる天才の「外側」と「内側」
章ごとに視点人物が切り替わることで、「春」という人物の天才ぶりが多方面から描かれます。
彼らも何かしらに秀でている人ではあるのですが、それでも春には追いつけない。
同じバレエ学校に通うことになった深津の視点で、15歳の時点でほぼ完成されたバレエの天才ぶりを。
春を幼い頃から知る叔父・稔の視点から、バレエに出会う前からバレエダンサーとしての素質を持っていたことを。
バレエの楽曲を提供する天才肌の作家・七瀬の視点から、彼女ですら追いつけないほど遠くへ進む様子を。
「彼には追いつけない」「他とは何かが違う」という多方面からの意見が出ることで、
春のバレエの素質や情熱が並外れたものであることを理解できます。
「彼は彼として完成している」と思っているのがポイントだなぁ。
③「春」の天才ゆえの孤独
4章で、ようやく主人公である春の視点になります。
ここで初めて、春が誰からも完全に理解されない孤独を抱えていることを知ります。
天才ゆえに周囲から「異質」に見られていることを、春はずっと感じていました。
穏やかで人当たりがいいけれど、絶対にスキを見せないようにしていること。
唯一「師匠」と呼ぶ人に「大丈夫だ」と言って欲しかったこと。
学校がずっとつらかったということ。
彼にとって踊ることは、祈ることだということ。
今日も一日、踊り切れますように。
明日も、その次の日も、踊り続けられますように。
外側の視点で見た時は、そんなに深い孤独の中にいるなんて気づきませんでした。
恵まれた天才に悩みなんてないって、無意識に思っていました。
避けてきた気持ちと向き合うことを決めた、ラストの舞台「春の祭典」。
彼が抱えた気持ちが迫ってきて、胸が苦しくなる舞台。
春が、彼自身を踊るために作ったバレエ。
孤独はこれからも埋まらない。
それでも大丈夫だと、これからも踊り続けるという決意。
そんな圧倒的なパワーを感じさせてくれました。
まとめ
「今までに書いた主人公の中で、これほど萌えたのは初めて」と恩田さんが言う主人公の物語『spring』。
バレエという芸術の美しさに魅せられる小説。
主人公の天才ぶりと、それゆえの孤独が描かれた作品。
実際のバレエの舞台を見たような気分になれて、心地よい読後感も感じられます。
恩田陸の他の芸術テーマの小説、
『蜜蜂と遠雷』や『チョコレートコスモス』などが好きという人に、ぜひ読んでほしい1冊です。
この本の次に読む本
『spring』を読んだ人におすすめする「次の本」はこちら。
本屋大賞と直木賞をW受賞した恩田陸の傑作長編。
国際ピアノコンクールを舞台に描かれる、天才たちの、競争という名の自らとの闘い。
まだ読んでいない人はぜひ読んでほしい作品!
恩田陸版『ガラスの仮面』とも言える演劇小説。
天才の名をほしいままにする響子と、芝居を始めたばかりの地味な少女、飛鳥。
二人の女優が、伝説の映画プロデューサー・芹澤が開く異色のオーディションに挑む。
役への入り込み方が圧巻!
恩田陸さんは、芸術や芸術家といった題材で書くことが多い作家さんでもあります。
そういった作品が好きな人はぜひチェックしてみてください。