感想

【感想】『わたしは孤独な星のように』|異文化にやさしく触れるSF小説

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池澤春菜さんのSF小説、『わたしは孤独な星のように』

Audibleで作品を見かけ、

「声優さんと同姓同名…? でもナレーターも…? え、ご本人!?」

と大変驚いた作品。

池澤さんご本人は日本SF作家クラブの会長も務めたほどのSF好きで、SFに関するエッセイも出版なさっているとのこと。

全く存じ上げなかった…。

そんな人が書いた、しかもナレーションまで担当している初のSF短編集。

SFというと、「宇宙!」「近未来!」「カタカナ専門用語乱舞!」みたいなイメージがありませんか?

私は、そういったSF小説は少し苦手なので身構えていましたが、ちょっと違いました。

もちろん、宇宙や未来を舞台にした作品もあるのですが、どれも自分の身近に感じさせてくれる描き方なのです。

とても面白いSF体験ができたので、感想をまとめていきます。

聴く読書に抵抗がない人や、池澤春菜さんのファンの人はAudibleで聴くことをおすすめしたいです。

ご本人がナレーションを担当されていてお得感2倍。

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本の概要

タイトル: わたしは孤独な星のように 
著者: 池澤春菜
発行: 早川書房

ざっくりあらすじ

『わたしは孤独な星のように』は、池澤春菜によるSF短編集で、全7篇の物語が収録されています。
表題作「わたしは孤独な星のように」では、静かに滅びゆくコロニーを舞台に、亡くなった叔母の弔いのために小さな旅をする女性二人の物語が描かれています。
「糸は赤い、糸は白い」では、きのこ―菌類を脳に埋めることが常識となった世界の少女たちの心情を繊細に描き、
「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」では、ダイエットから地球人類の危機が発生してしまうコメディタッチの作品を描くなど、
さまざまなパターンのSFを楽しむことができます。

滅びゆく未来や人間と異文化との接触を描いた、抒情的かつユーモラスな物語が詰まった一冊です​。

「糸は赤い、糸は白い」「いつか土漠に雨の降る」が特に好きでした。

どの短編にも、「静かな滅び」が描かれています。

目に見えてわかる地球の終わりであったり、自分の希望が砕かれてしまう恐怖であったりと、描かれ方はさまざま。

わかりやすい解決が書かれているわけではないのですが、

「この物語はこの形が一番美しい」と思える終わりで締められていて、

読了後、終わる世界について、無意識に考え続けてしまいます。

『わたしは孤独な星のように』特によかった作品3つについて

本書には7篇の短編が収録されています。

どの作品もテイストが違うので、読む人によって好きな作品も違うはずです。

この記事では、SFが苦手な私が、特にいいなと思った3作品を紹介します。

SFが苦手で読むのを迷っているという人は、参考にしてみてください。

①「糸は赤い、糸は白い」

「考えていることが言葉にせず伝わればいいのに」と思ったことがある人におすすめ。

頭にキノコの菌を埋め込むことが常識となった世界が舞台。

菌のもたらす「マイコパシー」という力で、言葉にしなくてもお互いの考えがより伝わる社会が生まれました。

キノコの移植は第二次性徴後に行われる、大人への通過儀礼のようなものになっています。

どんなキノコを移植するかが、いわばこの世界のステータス。

主人公は、そんな社会に生まれた思春期の少女。

同じ種類のキノコを移植した人はマイコパシーによる繋がりが深くなる、という話を聞き、
主人公は親友と呼べる存在の「コッコ」と同じキノコを移植しようと約束します。

キノコを脳に移植する、というSF的な設定でありながら、共感できるのがこの作品のすごいところ。

言葉にせず思いが伝わることは、コミニュケーションをとるのに理想のように感じます。

でも、それは本当に「いいこと」でしょうか?

自分の考えていることが言葉以上に相手に伝わること。

相手の考えていることが言葉がなくてもわかってしまうこと。

その喜びと恐ろしさを、優しく繊細に描いた作品です。

②「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」

ダイエットあるあるかと思いきや、地球の危機!

オンライン飲み会が続いた友人たちと、オフで女子会をすることになった主人公。

増えてしまった体重を落とすため、ダイエットを始めることに。

しかし、痩せない。

何をやっても痩せない。

冗談ではなく1gも体重が減らない。

彼女の脅威のダイエットが、SNSでバズり、テレビで取り上げられ、ついにはNASAまで動き出す!

シリアス系が続いた後に急にぶっ込まれてびっくりした作品。

ダイエットをしたことがある人は「体重が全然減らない」と思ったことがある人も多いでしょう。

最初はそういう「あるある」な気持ちで読んでいました。

でもこの主人公、本当に1gも体重が減らない。全然減らない。

これはなんかおかしいのでは?と思い始めた頃に、なんとNASAまで動き出す事態に。

彼女のダイエットが地球の危機を生み出してしまいます。

コメディタッチで描かれていますが、しっかりとSF作品。

続編の「宇宙の中心でIを叫んだワタシ」も収録されています。

③「いつか土漠に雨の降る」

今ではなく、いつかくる静かな滅びを描いた作品です。

南米にある標高五千メートルの山頂施設で働く技師が主人公。

施設の周辺、主人公が「土の砂漠=土漠」と呼ぶ土地には、ビスカチャという動物がいます。

その施設で働く人たちは、ビスカチャのうちの1匹を「セニョール」と名付けて見守っています。

ある日、セニョールの子どもが鳥に襲われ、連れ去られそうになる場面を目撃する主人公。

岩場に落とされ、絶命したビスカチャの子。

しかし、弔ってやろうとした主人公の手の中で、その子どもが蘇るところを目撃します。

衝撃的な場面を目にした主人公は、セニョールの調査を始めることに。

すると、セニョールは不死なのではないか、という疑惑が持ち上がってきます。

永遠に生きることは、人間にとっての課題で、希望で、ある種の滅びだ、と私は思っています。

不死になることは、「人間」とは別のモノになることだ、と考えるからです。

誰にも知られることなく、生と死を繰り返す生き物。

永遠は、人間にとっては希望なのでしょうか?

タイトルに秘められた静かな滅びの予兆に、じわじわと恐怖が湧き上がる作品です。

まとめ:わたしは孤独な星のように

『わたしは孤独な星のように』は、声優でありエッセイストの池澤春菜さんの初のSF短編集。

シリアスからコミカルまで、バリエーション豊かなお話が7篇入っています。

SFらしい題材を描きながら、登場人物の心情が細やかに表現され、共感しながら読める作品です。

短編集なので、好きなテイストの作品だけ読めるのもポイント。

また、Audibleを使えば、池澤春菜さんご本人の朗読で楽しむことができます。

読むのが苦手だな、という人は、Audibleで聴いてみることをおすすめします。

Audibleの無料体験について、こちらの記事で解説しています。

『わたしは孤独な星のように』を読んだ後におすすめの作品は?

『わたしは孤独な星のように』を読んだ後におすすめなのはこちら。

『ここはすべての夜明けまえ』|間宮 改衣

2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」。
100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けた「わたし」の、これまでの人生と家族にまつわる物語。

「わたし」の快活な語りで進んでゆく物語。

普通の家族の思い出話かと思いきや、読者は少しずつ不穏な空気を察知していきます。

未来が舞台のSFですが、人間の在り方が痛切に描かれた作品。

難しすぎないSFを楽しみたい人におすすめの作品です。

こちらもAudibleで聴くことができます。

興味のある人はぜひ聴いてみてください。

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  • この記事を書いた人

ほんの

「ほんのりぼん」の運営|0歳児育児中|本好きで年間約100冊読書|おすすめの小説や自己啓発書などを紹介|今より少しだけ豊かな生活を手に入れる読書の方法を発信しています。

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